運動を続けていると、すねやふくらはぎが張って痛くなる。 休むと痛みは軽くなるけれど、走り始めると同じ場所がまた痛くなる。 一方、骨折や強い打撲のあとに、腫れと激しい痛みが急速に強くなることもあります。 どちらも「コンパートメント症候群」と呼ばれますが、急性と慢性では緊急性も対応も異なります。 特に外傷後に起こる急性コンパートメント症候群は、筋肉や神経へ血液が届かなくなる可能性がある緊急疾患です。
骨折や強い打撲のあとに、痛みや腫れが急速に強くなる、指先がしびれる、動かしにくいといった症状がある場合は、この記事を読んで様子を見ず、直ちに救急医療機関を受診してください。
コンパートメント症候群は、筋膜に囲まれた区画の内圧が高くなる状態です
筋肉は、筋膜に囲まれた区画の中に収まっています。 この区画を「コンパートメント」と呼びます。 出血や筋肉の腫れによって区画の内圧が高くなると、筋肉、血管、神経が圧迫されます。 圧迫が強くなり、血液が十分に届かない状態が続くと、筋肉や神経の機能が損なわれます。

急性コンパートメント症候群
骨折、強い打撲、挫滅、出血などをきっかけとして、短時間のうちに区画内圧が上昇します。 筋肉や神経へ血液が届かなくなる可能性があるため、迅速な診断と治療が必要です。 組織が壊死すると、筋力低下、感覚障害、関節拘縮などの機能障害が残ることがあります。
慢性労作性コンパートメント症候群
ランニングなどの運動によって筋肉が膨らみ、区画内圧が一時的に高くなる状態です。 一定の時間や距離を走ると、毎回ほぼ同じ場所に痛みや張りが現れます。 運動を中止すると症状が軽くなることが、急性例との大きな違いです。
下腿は、前方・側方・浅後方・深後方の四つの区画に分かれます
コンパートメント症候群は前腕や大腿などにも起こりますが、スポーツでは特に下腿に多くみられます。 下腿は、次の四つのコンパートメントに分かれています。 ①前方コンパートメント 前脛骨筋、長母趾伸筋、長趾伸筋などが入っています。 ②側方コンパートメント 長腓骨筋、短腓骨筋などが入っています。 ③浅後方コンパートメント 腓腹筋、ヒラメ筋、足底筋などが入っています。 ④深後方コンパートメント 後脛骨筋、長母趾屈筋、長趾屈筋などが入っています。

急性例では外傷や出血、慢性例では繰り返す運動がきっかけになります
急性コンパートメント症候群の原因
急性例では、次のような外傷や圧迫がきっかけになります。 ・骨折 ・強い打撲 ・挫滅 ・筋肉内の出血 ・きついギプスや包帯による圧迫 ・血流が途絶えたあとに再開することで起こる腫れ スポーツでは、スキー、ラグビー、バスケットボールなどで起こる骨折や強い打撲に注意が必要です。
慢性労作性コンパートメント症候群の原因
慢性例では、ランニングなどの繰り返す運動によって筋肉が膨らみます。 筋膜が十分に広がらない場合、区画内の圧力が高くなり、筋肉や神経へ負担が加わります。 陸上長距離、サッカーなど、走る動作を繰り返す競技でみられます。
急性例では、強くなる痛み・腫れ・しびれ・動かしにくさが現れます
急性コンパートメント症候群では、次のような症状が現れます。 ・外傷の程度に比べて強い痛み ・時間とともに強くなる痛み ・張りつめるような腫れと硬さ ・筋肉を伸ばされたときの強い痛み ・しびれや感覚の低下 ・足首や足趾を動かしにくい 脈が触れない、皮膚が白くなるといった変化は、症状が進行してから現れることがあります。 そのため、脈が触れることだけでは急性コンパートメント症候群を否定できません。
慢性例では、運動中に同じ場所の痛みや張りが繰り返されます
慢性労作性コンパートメント症候群では、運動中に次のような症状が現れます。 ・すねやふくらはぎの痛み ・筋肉が膨らむような張り ・焼けるような痛み ・しびれや感覚の変化 ・足首や足趾の動かしにくさ 一定の時間や距離で症状が始まり、運動を中止すると徐々に軽くなるという特徴があります。

症状が現れる場所は、圧力が高くなった区画によって異なります
前方コンパートメント
下腿の前外側に痛み、腫れ、圧痛が現れます。 親指と人差し指の間に感覚の変化が生じることがあります。 進行すると、足首を上げる動きや足趾を伸ばす動きが弱くなります。 足首や足趾を下へ伸ばされたときに、痛みが強くなることがあります。
側方コンパートメント
下腿の外側に痛みや圧痛が現れます。 下腿外側から足の甲にかけて、感覚の変化が生じることがあります。 進行すると、足首を外側へ向ける動きが弱くなることがあります。
浅後方コンパートメント
ふくらはぎに痛み、腫れ、圧痛が現れます。 進行すると、足首を下へ伸ばす動きが弱くなることがあります。 足首を上へ曲げ、ふくらはぎを伸ばしたときに痛みが強くなることがあります。
深後方コンパートメント
下腿の内側から深部にかけて、痛みや圧痛が現れます。 足の裏にしびれや感覚の変化が生じることがあります。 進行すると、足首を内側へ向ける動きや、足趾を曲げる動きが弱くなることがあります。 足趾を上へ反らされたときに、痛みが強くなることがあります。
急性例は診察と経過を中心に判断し、内圧測定を補助的に行います
急性コンパートメント症候群は、受傷状況、痛みの強さ、腫れ、硬さ、感覚、筋力などを繰り返し確認しながら判断します。 症状だけでは判断が難しい場合や、本人が症状を伝えられない場合には、針を区画内へ入れて内圧を測定することがあります。 内圧の数値は、血圧や症状、時間経過と組み合わせて判断します。 一回の測定値や、一つの基準値だけで確定または否定するものではありません。 レントゲンは骨折や脱臼の確認、MRIなどの画像検査は血腫やほかの疾患を調べるために用いられます。
慢性例では、運動前後の内圧を比較することがあります
慢性労作性コンパートメント症候群では、症状が出る運動を行い、その前後で区画内圧を測定することがあります。 同時に、シンスプリント、疲労骨折、神経の圧迫、血管の問題など、似た症状を起こす疾患との区別を行います。
急性コンパートメント症候群では、応急処置より早い搬送を優先します
外傷後に急激な痛み、腫れ、しびれ、動かしにくさがある場合は、直ちに救急医療機関へ搬送します。 ギプス、包帯、サポーターなどが強く圧迫している場合は、医療者の指示に従って圧迫を解除します。 患部を心臓より高く上げると、患部へ流れる血液がさらに減る可能性があります。 そのため、急性コンパートメント症候群が疑われる場合は、患部を高く上げず、心臓と同じ程度の高さに保ちます。
急性コンパートメント症候群が疑われる状態では、冷却や挙上を続けながら自宅で経過をみる対応は適しません。 時間を置かず、救急医療機関で評価を受けます。
急性例の根本的な治療は筋膜切開術です
区画内の圧力を下げる必要がある場合は、筋膜を切開して筋肉を開放する筋膜切開術が行われます。 手術の判断は、症状、経過、受傷状況、血圧、内圧測定などを総合して行われます。 腫れが強い時期は、切開した部分をすぐに閉じず、開放した状態で管理することがあります。
慢性例では、症状を起こす運動と走り方を確認します
慢性労作性コンパートメント症候群では、症状が現れる運動量を減らし、負担の少ない運動へ一時的に切り替えます。 同時に、 ・症状が始まる時間や距離 ・走る速度 ・路面や傾斜 ・接地位置 ・シューズ ・ランニングフォーム などを確認します。 運動量や走り方を変えることで症状が軽くなることもありますが、真の慢性労作性コンパートメント症候群では、保存的な対応だけでは症状が残る場合があります。

症状が続く場合は、筋膜切開術が検討されます
運動量の調整やフォームの変更を行っても症状が続く場合は、筋膜切開術が検討されます。 手術後の復帰時期は、切開した区画、症状、傷の治り方、筋力、競技内容によって異なります。 一定の期間だけで判断せず、痛み、腫れ、感覚、筋力、走行動作を確認しながら段階的に復帰します。
まとめ|外傷後に急速に悪化する痛みは、直ちに医療機関で確認します
コンパートメント症候群とは、筋膜に囲まれた区画の内圧が高くなり、筋肉、血管、神経が圧迫される状態です。 急性例は、骨折、強い打撲、出血などのあとに発生し、緊急の診断と治療が必要です。 慢性例は、ランニングなどの運動中に同じ場所の痛みや張りが繰り返され、休むと軽くなる特徴があります。 外傷後に、 ・痛みが急速に強くなる ・筋肉が硬く張っている ・指先がしびれる ・足首や足趾を動かしにくい ・筋肉を伸ばすと激しく痛む といった症状がある場合は、自宅で様子を見ず、直ちに救急医療機関を受診してください。
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